Tales OF Seek 第8話 「再会」4


第8話 「再会」4


エピオス村への道中、馬を走らせるサージュは空を見上げた。日はまだ昇りきっていない。

「なんとか昼までにエピオス村に到着したいところだな……ん?」

 サージュは馬を止めた。
 道のど真ん中にフード付きのマントを羽織った人が立っている。フードを目深に被っていて顔は分からないが、体格から察するに男性だろう。左腕には黒紫色のラピスがついた腕輪。その手はハルバードを握っていた。
 馬から降り、男に声をかけるサージュ。

「きみは……なぜここに?」
「――覚えているか? 六年前のあの日、テメェらは俺の全てを奪った」

 サージュの問いかけに答える様子はない。鼻で笑ってみせた男、その声からは明らかな敵意が感じられた。

「六年前?」
「世界平和のためだと、俺の居場所も、家族も全て!」

 ハルバードを振り回し、サージュに突き付ける男。

「あいつをぶっ潰してからと思っていたが、俺の気が済まなくなっちまった。まずはテメェからだ!」

 戦う意志が揺らがない男に対して、サージュは武器を取らない。男の言っていることがよく理解できていないのだろう。

「待ってくれ、どういうことか話を聞かせてくれないか!?」
「うっせぇ! 俺はテメェらに復讐するために生きてきたんだ!」

 男は武器を構え、突進してくる。
戦いは避けられない――サージュは短剣を抜き、結晶術の陣を展開する。色は赤、ファイアボールだ。
放たれた火炎弾を、男はハルバードの一振りで掻き消す。

「ウリャア!!」

 鋭い踏み込みからの突き。風を切り裂く一撃はサージュの左胸を過たず穿つ――かと思われた。
サージュは短剣でそれを逸らし、左腕を浅く裂く程度に抑える。すぐさま後方に飛び退き、紫色の陣を展開する。サージュの得意な雷属性だ。
 男はそれを追わず、同様に結晶術の陣を展開した。色は、黒。かつて一度だけ目の当たりにした色。サージュの瞳に動揺が映った。

「それは――」
「妬みの導きよ! シャドウエッジ!」

 陣が弾け、サージュの影から漆黒の刃が発生した。それはサージュの身体を貫き、しばし彼の動きを止める。男はハルバードをサージュに突き刺し、豪快に振り上げた。
サージュは吹き飛び、受け身も取れずに落下する。

「ぐっ、うう……!」
「覚えてねぇよなぁ? 当たりめぇだよなぁ。 テメェらは、目の前の戦いに必死だったからな。だが、俺は覚えてるぞ。あの日のことは、絶対に忘れねぇ!」
「きみはいったい……ッ」

 戦況は男に傾く一方だった。サージュの短剣では威力もリーチもハルバードに劣る。結晶術も、強力なものを使おうとすれば男の結晶術で妨害されてしまう。もはや勝機はなかった。
 ハルバードがサージュを襲う。防ぎきれず、無様に地面を転がった。

「ぐっ……! まさか、こん、な……っ!?」

 ひた、と首に冷たい感覚。ハルバードの刃が触れていた。

「終わりだ」

 冷たく、鋭い声。刃が首に沈み、熱いものが流れる。男の口元が見えた。ほんの僅かに上がっていた。
 覚悟を決めたサージュに、男はハルバードを振り抜いた――。



「シィク、どうだった?」

 バオムの街で馬の捜索を続けていたシィクたち。街の入り口で集まった三人は、各々成果を報告することにした。  シィクは頭を振る。成果は上がらなかったようだ。

「僕の方はさっぱり」
「そう……」
「港町ナーウィスまで徒歩で行くのは時間がかかりすぎる。仕方ない、この街で馬を手に入れるしかないか」

 ロックスも見つけられなかったらしく、妥協案を提示した。
 不安そうな眼差しを向けるローザ。心配しているのは、馬の行方ではない。

「そんな……ロックスさん、お金の方は大丈夫なんですか?」

 長い旅は始まったばかりだというのに、こんなところで贅沢はしていられない。ローザの心配は当然だった。ロックスもそれは頭にあったのだろう。

「多少は持ち合わせているが、ナーウィスで少し稼がないと王都への船は乗れないな」
「おい、深刻そうな顔してなに話してんだ?」

 能天気な声。振り返るとそこにはリヴァルがいた。こんなタイミングで現れたことに驚いたシィクはたまらず声を荒げる。

「リヴァル! いままでどこ行ってたの!? リヴァルも馬を探すのを手伝ってよ!」
「馬ぁ? それならさっき御者んとこに連れてったぜ?」
「えっ?」

 まさかの一言に目を丸くするシィクとローザ。当のリヴァルは、なにを驚くことがあるのかと疑問に思っている様子だった。状況を把握していないらしいリヴァルに、ローザが質問をぶつける。

「どこにいたの? 街中探しても見つからなかったのに」
「魔物に追われて逃げだした馬を捕まえてたんだ」
「えっ……!? そうだったんだ……」

 納得した様子の二人をよそに、ロックスだけが怪訝そうに目を細めていた。どこかおかしいのだ。話の筋が通らないとかそういうものではなく、リヴァルの纏う雰囲気、におい。言葉で言い表せない程度の些細な違和感。
 だがロックスは敢えて口にしなかった。問い詰めても仕方のないことだと、吐息一つで済ませる。リヴァルはと言うと、陽気に笑っていた。

「まあ、俺がいてよかったよな! んじゃあ次の目的地、港町ナーウィスへ行こうぜ!」
「もう、調子いいんだから」

そして、旅立ち二日目の朝をむかえた。

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