Tales OF Seek 第1話「終焉と発端 1」


第1話 終焉と発端

 クレアレイスン大陸。

この世界、【ノードゥス】の最果てに広がる、終焉の大陸。
古より様々な災厄が眠ると伝えられるこの地は、人間の進入を頑なに拒絶する。

未踏の大陸。
それは何故在るのか、そこには何が在るのか。
その真相に辿り着けた者は、幾星霜(いくせいそう)の刻を経ても現れていない。
それどころか、真相を求めて旅立っていった者など、誰一人として存在しないのだ。

エネルギーの枯渇、治安の悪化、魔物の暴走。
そして、精霊が司っていたバランスの崩壊。
各地に及んだ被害は甚大であり、世界は次第に乱れていった。そんな状態で、未踏の大陸を探ろうとする者など、現れるわけもない。
世界が、災厄に蝕まれていく。




 陽光の届かない薄闇。
そこは廃れた教会のような空間であった。
壁面には神秘的なステンドグラスが飾られているが、光の無い世界では鮮やかな色もあせてしまう。
かろうじて周囲を認識できるのは、明滅を繰り返す古びた照明のおかげだ。

 赤黒くさびついたパイプオルガンの真下。一人の男が佇んでいる。
少し距離をおいて、その背中に武器を向ける四人の青年が居た。
大剣を構え、勇ましい顔付きをした青年が叫ぶ。
「ウィングルム!」 

 ウィングルムと呼ばれた男は、青年の声に応える形で振り向いた。
緋色の仮面で目元を隠しており、表情は窺えない。しかしそこから覗く瞳は深紅と言おうか、底知れなかった。
言うなれば、血のような色。

 微かに口の端を釣り上げるウィングルム。笑みではあるが、決して好意的なものではない。むしろ憐れみのような感情が宿っていた。
「何者だ?」
 危機感の欠片も感じさせない余裕のある口調。

 青年の後ろに控える二人の男女が今にも飛びかかりそうな殺気を放つ一方、最後方の女性が溜め息を吐いた。
「落ち着いてください、サージュ、ラフディ。ロックス隊長よりも先んじてどうするのです?」
 二人はうめく。
理性をないがしろにしたことへの反省だろう。そのときウィングルムの重々しい苦笑が響く。
「随分と野蛮な部下を持っているな。……ロックス、隊長?」
 ウィングルムは大剣の青年――ロックスに視線を移す。
溜め息を交えて告げられたその言葉は、あからさまな憐憫を含めたものであった。

ロックスは、肩を竦めるのと同時に溜め息を吐いてみせる。「わかってくれるか」と、そう言わんばかりに。

「そうだな、自制の効かない部下だと思う。私も散々、苦労をかけられた」
 予想外の答えだったのか、サージュ、ラフディは目を見開いてロックスを凝視する。
「だが、貴様を討つための最高の戦力だ。――そうだろう、お前たち?」
 微笑をたたえながら、部下たちに問いかける。三人の表情からは堅さが取れ、張り詰めていた緊迫感も多少和らぐ。

「ここまで来ちまいましたし、最後までお供しますよ」
「これで終わりなら、やるしかないもんな。今更、尻尾巻いて逃げる意味が無いし」
「そういうことです」

 暴走寸前だったサージュとラフディ、そしてシャンティという部下たちの決意を聞き届け、ロックスはしっかりと告げた。
「――ありがとう」

「ふっ……はははっ、はははははっ」
 ウィングルムが笑った。その笑い声は狂気を孕んでおり、覚悟を決めたロックスたちを震えさせるほど。
「……面白い。ならば見せてもらおう。お前たちがどこまで出来るのかを、な」

「気を引き締めろよ、お前たち! これが最後の戦いだ!」
 部下たちを鼓舞して、ロックスは駆け出した。

Next>>