「すぐ実戦になると思ってたけどよ、やっぱ予想通りだったぜ!」
「も、もうそれは仕方がないよ」
「あはは……ごめん」
先に着いて体を動かすことが適わなかった三人も武器を構えた。
シィクは剣を抜き、ローザは鉄扇を持ち、リヴァルはハルバードを掲げる。
「行くぜェ! フンッ!」
リヴァルが突進し、ハルバードを振り下ろす。
ロックスはそれを避けることなく大剣で防いだ。甲高い金属の音が青空に木霊する。
その横から、大きく剣を引いて溜めを作ったシィクが力強く踏み込む。気づいたロックスが、微かに笑った。
「ほう?」
「瞬迅剣ッ!」
突き出された剣は空を切った。ロックスが即座に後方へ飛んだのだ。
がら空きになったシィクとリヴァルに向けて大剣を薙ぎ払う。
シィクは避けきれず、リヴァルもハルバードの柄で何とか防御した。
「うわぁっ!」
「ぐぉっ!」
「甘いぞ、二人とも! 鋭招来!」
一拍の呼吸の後、ロックスの空気が鋭いものに変わる。身体能力を高めたのだ。
「勇気の導きを! フレイムドライブ!」
ローザを中心に描かれていた、赤い魔法陣が弾ける。鉄扇を振るうと、三つの小さな火球がロックスを襲った。
ラピスを使用した結晶術である。ロックスは大剣の重さなど構うことなく、身をよじって回避した。
「もう結晶術を扱えるのか? 飲み込みが早いな、ローザ」
「ロックスさんの教え方が上手だからです!」
ローザが駆け出した。シィクとリヴァルもそれに続く。
それを見て、ロックスも迎え撃つように走り出す。
「行きます! 連牙弾!」
蹴りと鉄扇の連続攻撃を、事も無げに防ぎきるロックス。
飛び込んだリヴァルは、三日月を描くようにハルバードを振り上げる。
「っらぁ! 弧月閃ッ!」
これも防いだロックスだが、大剣で受けた衝撃は強い。
一瞬の硬直が生まれ、そこにシィクが駆け込む。
「えいっ! やあっ! たあっ!」
反応が遅れたロックスだが、余裕そうに回避する。
「シィク! 無駄な動きが多すぎるぞ! どう動けばいいのか、もっとよく考えるんだ!」
そう言いながら、シィクを蹴り飛ばすロックス。
「油断するなよ、絶翔斬!」
「うぉっ!?」
「きゃあっ!」
大剣を振り上げ、自らも上空に飛び上がってローザとリヴァルも吹き飛ばす。
「うっ、く! 魔神剣!」
着地に失敗したシィクは、剣の間合いから大きく離れたところで剣を振るう。
斬撃は衝撃波となってロックスに迫るが、やはり当たらない。苦し紛れに放った斬撃は見当違いのところへと飛んでいく。
遠くで戦うローザとリヴァルを見て、うろたえるシィク。何をしていいのか、分からないといった様子だ。
ようやく気づいて、ロックスからもらったラピスを見る。
目を閉じ、意識を集中させると、シィクを中心に紫色の魔法陣が展開した。
「慎重な導きを……ライトニング!」
魔法陣が弾け飛び、ロックスの頭上から雷が落ちる。
虚を突いたはずの一撃だが、とっさのステップでそれも回避する。
着地した直後のロックスめがけて、リヴァルが飛んだ。
「裂空斬ッ!」
「なかなかやるっ……だが、まだだな!」
大剣を担ぎ上げ、勢いよく叩きつける。パワーを重視した一撃だ。
リヴァルは無情にも力負けし、強かに体を打ち付ける。
「どうした、もう終わりか?」
余裕を見せ付けるロックスに、リヴァルが唸った。
シィクとローザも息が上がっている。
「おいシィク、ローザ! 今日こそ勝つぞ! あの技で一気に決めようぜ!」
リヴァルの提案に、二人は驚いたように目を見開く。
「えっ!? もう!? ……でも、そうだよね! やってみよう、シィク!」
「ええっ!? 僕、自信無いんだけどっ」
踏ん切りのつかないシィクに、リヴァルが怒鳴る。
「んなの知るか! 今やんねぇで、いつやるってんだよ!」
「そうだよ! やってみよう?」
リヴァルの力強さと、ローザの後押しで、覚悟が決まったのだろう。シィクは弱々しい瞳に光を灯して頷く。
「っ! わかった、やってみよう!」
雰囲気の違う三人に、ロックスも身構える。
ローザが詠唱を始めた。陣の色は赤、炎属性の結晶術だ。
「我らが刃に炎を灯せ。紡がれし絆、勇壮を示さん……ヒートウェポン!」
澄み渡るローザの声。鉄扇、剣、ハルバードが炎をまとう。
「リヴァル!」
「っしゃあ、任せな!」
ローザの呼びかけに応じたリヴァル。
その突進はロックスの意表をついたようで、刹那の判断が遅れる。
ハルバードを振りかぶり、叫ぶ。
「フッ……くらえぇ!! 今だシィク、やるぞ!」
「うっ、うん! やああああっ!」
シィクも、炎が灯った剣を振りかぶる。
息を合わせた、三人の連携技。
「絶破滅焼撃!!」
「フンッ! 甘いッ!」
ロックスの声が聞こえたのと同時、シィクとリヴァルの武器に灯っていた炎が弱まる。
ロックスが所持している水のラピスによるものだ。
大剣を振るって、二人を弾き飛ばす。
「って、うわあっ!!」
三人の連携技の失敗。
そこからはあっという間だった。
ロックスが繰り出す技の速さについけていけない三人は次々と戦闘の続行が不可能な状態へと追い込まれていった。
最後まで残っていたリヴァルが戦闘不能となると、ロックスは大剣を収める。
「よしっ、ここまで! ……って、すまない。三人とも、大丈夫か?」
反応することさえ出来ないほど疲れ果てているのだろう、三人はぜいぜいと息を切らしている。
「に、兄さん……ここまでやっておいて、『大丈夫か?』じゃ、ないよ……」
「あ、いや、すまない。まさかあんな技を使ってくるとは予想していなかったからな」
まだ呼吸が整わないローザが、笑顔を見せた。
「えっへへ……実は、三人で、隠れて練習……してたんですよ」
「はぁ……ま、まあ、いつも僕が失敗して、成功したこと、ないんだけどね……」
「……クソッ!」
和やかな雰囲気の中、一人、悔しさを隠しきれていないリヴァル。
それもまた良し、とロックスは笑う。
「はは、しかし驚いたよ。三人とも、なかなかやるじゃないか」
その言葉に、表情を緩めるシィクとローザ。しかしリヴァルだけは、悔しそうに唇を噛み締めていた。
「さて、初っ端から体力を使わせたあとで疲れているかもしれないが、今日は訓練ではなく、村の見回りの手伝いを頼みたい」
「えっ?」
シィクの頭上に浮かんだクエスチョンマーク。それを消すための説明を始めた。
「最近、この村の周辺にゴロツキたちが住み着いているようでね」
こんな田舎のそばに人が住むような場所などあっただろうか、とシィクのクエスチョンマークはまだ消えない。
ロックスの説明も、まだ終わらなかった。
「それだけならば俺が動けば問題無いのだが……少し、嫌な予感がする」
「ロックスさん……」
ロックスの声音には、何かがこもっていた。
心配そうな表情を浮かべるローザ。
「気のせいじゃねぇの? ま、たまにはこういうのも息抜きになっていいかもしれねぇな」
「僕たちでどこまで出来るかわからないけど、みんなが安心して生活できるのなら、喜んでお手伝いするよ」
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