Tales OF Seek第1話 求めるもの・欲望 3


第1話 求めるもの・欲望 3

森の方へと向かった四人。
住み着いているであろうゴロツキと遭遇することは無く、獣たちとの戦闘を二度ほど行い、村に近づいた獣を追い払った程度の内容であった。
見回りに費やした時間はなかなかのもので、疲労も少なからず溜まったようである。

ロックスの手伝いを終え、村に帰る三人。暖かな風を感じながら、西の空に沈む赤い光を望む。

「はぁ……き、今日は、特に疲れたね」
「そうだね、たくさん歩いたもんね」

くたびれたようなシィクに、ローザは笑顔を送った。
夕日を眺めつつ、今日の出来事を振り返り始める。

「まさかロックスさんのお仕事を手伝うことになるなんて。この辺りも物騒になってきてるのかなって心配してたんだけど、なんともなくてよかったね」
「ハッ、この村は頭がボケちまうほど平和な村だと思うぜ?」

退屈そうに鼻で笑うリヴァル。

「それが良い所なんだと思うけど?」

よほど平穏無事な生活に飽き飽きしているのだろう。それでもリヴァルは、溜め息を吐く。

「はぁ……しっかしなぁ、こう毎日毎日平和すぎても、変化が無くてつまんねぇよな」
「そうかな? わたしはいまの生活に満足しているし、大事だと思ってるよ」
「ウソだろ!? 俺はこの平和な毎日に物足りなさを感じてるぜ!?」

ローザの言葉に驚きを隠せていないリヴァル。
大袈裟なリアクションに、シィクは微笑みながらも自身の考えを口にする。

「きっと、身近すぎて気づかないだけだよ。僕も、この平和な毎日が一番大事だと思う。だから、今のままで充分かな」
「ふふっ、わたしも! わたしも、今のままで充分かな♪」

シィクの方に駆け寄り、微笑むローザ。
しかし、すぐに歩みのペースを遅くする。神妙な面持ちで遠くを見ながら、ぽつりと呟く。

「でも……そうだな」

雰囲気の変化に気づいた二人は、足を止める。
夕日に照らされるローザ、その表情はどことなく陰りがあった。

「本当はわたし、記憶を取り戻したい。本当の家族はどんな人で、わたしがどんな生活をしていたのか……知りたい」
「ローザ……」

重苦しい空気が漂う。シィクは何も言葉を紡げず、ローザもまた口を閉ざしたまま。
沈黙を破ったのは、リヴァルが手を打ち鳴らす音であった。

「よぉーっし! じゃあよ、ローザの記憶が戻るように、俺たちが協力してやろうじゃねーか!」
「えっ?」

戸惑うローザ。
リヴァルの勢いに乗るように、シィクも言葉を続ける。

「ローザが知りたいなら、僕も協力するよ」
「シィク、リヴァル……」

二人の暖かな言葉。
困ったような顔のローザであったが、シィクの微笑みと、リヴァルの笑顔につられて笑みをこぼす。

「……うん、ありがとう! ありがとう二人とも!」


エピオス村に夜が訪れる。
村民は寝静まり、川のせせらぎだけが聞こえる夜更けのこと。
森の中にある木造の小屋。これは廃屋となっており、人が寝泊りするところではない。身を隠す分には最適であるが。
ろうそくの火が灯る暗い部屋の中、四人の男が居た。筋肉質で戦い慣れした男と、小太りの男が二人。もう一人は、黒の長髪で、目つきの悪い男。

「ママママジでやんすか! あの村にレアリティーの高いラピスがあるっちゅーんは!?」
「ああ、昼間ちぃとばかり確認したが、あの家のラピスは『恵の石』だ。かなり高レベルのラピスだぜ!?」
「ゴ、ゴゴゴゴッ、ゴヒィーーー!」

興奮したように鼻息を荒くする二人の男。
筋肉質の男はリーダー格ということらしく、二人を制止すると視線を黒髪の男へ送る。

「だがよぉ、オメェ、マジであのラピスを盗んできたら、わっしらでも使いこなせるレベルのラピスを大量にくれんのかよ?」

今まで沈黙していた男は、狂気を孕んだ笑い声をあげた。

「ッヒヒヒヒ! あーあ勿論さぁ! 俺様はレアリティーの高いラピスにしか興味ねぇんだよ! こんな低レベルのラピス、いくらあろうが価値なんか感じねぇな!!」

傍らにあった袋の中身を、テーブルにぶちまける男。中から出てきたのは、大量のラピスであった。
三人の男はおのおの興奮し、歓喜の声をあげる。

「ッヒヒ、わかったんならさっさと行きな! ッへへヘヘヘェェ!!」

小屋を出た三人の男は、村の方へと向かっていく。
三人の姿が闇の中へと溶け込んでいったのを確認した男は、自慢の大鎌を振り回す。

「俺様が欲しいのは欲望だ! てめぇらのそのラピスに対する欲望が欲しい! もっと……もっとだ! 欲を! もっと欲をかけェ! ッヒヒヒヒ! ギャッハハハハハハハハハハハハ!!」

Next(第2話『変遷』)>>