Tales OF Seek 第2話「変遷」1


第2話「変遷」1

夜が訪れる。
村は静かに寝息を立て、近隣の森では夜行性の獣たちが活動を開始する。
フクロウや虫の鳴き声が夜の静寂に響き、不気味さを際立たせている。

その村のすぐ近く、鬱蒼とした茂みの中で、ゴロツキたちが様子を窺っていた。
狙いをつけているのは、とある民家。別段特徴もない家屋であったが、彼らの狙いはその家庭が所持するラピスである。
統率をとる男が、二人の子分に伝える。

「いいかテメェら、狙いはあの家のラピスだ。レアリティの高ぇラピスっつうても、小せぇから落っことすんじゃねーぞ」
「ヒョー! 分かってるでヤンス!」

子分は揚々と武器を掲げる。その刃は月明かりに照らされ、禍々しく光った。
意気込む子分たちを見て、統率の男もニヤリと笑う。

「んじゃ……」

武器を取り出し、振り回しながら茂みを飛び出した。

「いくぜおめぇらっ!」
「ラジャーッ!」
「ゴッヒィー!」



飛び出していった三人の背中を見つめる男が一人。彼らに指示を出していた長髪の男だ。
男はこらえ切れないといった様子で笑い声をもらす。

「キッヒヒヒ、行ったな。クッククク、ハハハッ! ヒャッハハハハァ!」

ひとしきり笑った男であったが、直後には恍惚とした表情で身を震わせる。

「面白ぇ、あいつらの欲望……たっまんねぇなぁおい! どんどん力が湧いてきやがる……!」




場面は変わり、時間も少しさかのぼる。
夜間の見回り調査をしていたロックスたちは、森に建てられていた小さな廃屋にいた。ゴロツキたちが身を潜めるとするならば、この辺りが適当だと判断したためだ。
昼間にも一度、ここを訪れているが、そのときとは少しばかり様子が違う。

「身を潜めるには充分な場所だと思って来てみれば……」

小屋の中を探るロックス。
人がいた形跡たち。

身を屈めたロックスはぽつりと呟く。

「タイミングが悪かった、か」

嫌な予感が脳裏をよぎる。ざわざわと肌が粟立つのを感じていた。

「まずいな……村が危ない!」


ロックスは一人、踵を返して村へと走った。 何事も無いことを祈って。



「おらぁぁぁぁぁっ!!」

ガラスが弾ける音が、夜の静寂を切り裂いた。直後、乱暴に扉が蹴破られる。
ゴロツキたちはその家の者たちの眠りを無粋にも妨げた。いち早く異常に気づいたのは、夫婦の夫であった。

「何事だっ!?」

ベッドから飛び起きた夫が確認に向かうと、三人のゴロツキが指輪のケースをを掴んでいるところであった。夫の表情が驚愕に染まる。

「そ、それは!」
「へっへっへ、こいつはわしらが貰っていくぜェ!」

その言葉に続いて、花瓶が粉砕する音が鼓膜を襲う。破片が床に飛び散るが、夫は怯んだ様子もなくゴロツキに向かっていく。

「そ、その指輪だけはっ!」
「おぉっと!」

険しい顔の夫をかわし、武器を振るう。後頭部に衝撃を受けた夫はその場に倒れこんでしまう。奥の部屋から、赤ん坊の泣き声が響いた。続いて、異変に気づいた妻が姿を現す。

「あなたー!? どうされたんです!?」
「ゴヒーィ! 面倒くさいことになりそうだッヒィ!」
「畜生が! おい、てめぇら! ずらかるぞ!」

統率の男が子分を制し、嵐はあっという間に過ぎ去っていった。


エピオス村での事件から一夜が明けた。
昨晩、村に駆けつけたロックスは間に合わなかった。民家に強盗が入ったという話を、ローザの養父母から聞いたシィクたちは夫婦の家にお見舞いに訪れる。
当人から聞いた話は、あらかじめ聞いたものよりも凄惨なものであった。

「ひどい……エピオスでそんなことがあるなんて」
「あの人の怪我もそこまでひどくなかったし、なによりこの子が無事でよかったわ」

事件の概要を語る妻は、慈しむように愛娘を撫でる。赤ん坊は昨日のことがあったにも関わらず、太陽のような笑顔を浮かべていた。

「でも、盗まれたラピスって大事なものだったんですよね?」
「……そうね。大事な思い出の品だけど、あの人やこの子の命には代えられないわ。それに私たちには、あのラピスは使いこなせないからね」

その後、短い談話を終えたシィクたちは家を出る。
昨日のことはすでに村中に知れ渡っているようであった。夫妻を哀れむ声や、次に狙われるのは自分ではないか、と戦々恐々する者もいる。
宛てもなく歩く三人、ローザが小さく呟いた。

「私たちでなんとかできたらいいんだけど……」
「……じゃあ、僕たちで犯人を捜して取り戻す、っていうのはどうかな?」
「ハァ!? 正気かよ!? そんな簡単に見つけられるわけねぇだろ!?」

リヴァルの言うことはもっともであり、それはシィクとローザも分かっていた。
言葉を失い、重苦しい空気が漂う。

「でも……」
「『でも……』じゃねーよ! マジでクソ甘ぇやつだな!」

苦し紛れに言葉を続けようとするシィクに、リヴァルが苛立ちを募らせた様子で怒鳴る。
二の句を紡げなかったシィクは俯いて黙りこんでしまう。

「だけど……私も、なんとか出来たら、いいんだけど……」
言葉を続けたのはローザであった。
それを聞いたリヴァルは「お前もかよ」と言わんばかりの表情である。
耐えられなくなり、ついにため息が出てしまった。

「手がかりがねぇ以上、俺たちにゃ何もできねーよ。グダグダ言ってねーで、訓練行こうぜ!」
「あっ、その前に少し森に寄ってもらえないかな? レギンおじさんの怪我に効く薬草を取りに行きたいの」
「それはいいね」

ローザの提案にシィクも賛同する。
説き伏せることを諦めたリヴァルは、がっくりと肩を竦めた。

「はぁ、しっかたねーな」

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