エピオスの森は、数種の薬草が混生している森として薬師や医者たちの間では有名だが、王都からも遠く、大陸の南端にあるため、エピオスへの訪問者は少ない。
ローザの探す薬草は、村の狩り専用通路から森へ入り、暫く歩いたところにある。
シィクたちは軽く準備を整え、目的地へと向かった。
「ここだね! ちょっと待っててね」
そう言うとローザは目的の薬草を探し始める。
村近辺の森の、少し深いところ。そこには広い空間があり、薬草を含んだ幾つもの草花が根を下ろしていた。
穏やかな風がローザの髪を揺らし、川のせせらぎが静かに響いている。
シィクは、その穏やかな時を感じていると、川辺に小さな袋が落ちていることに気がついた。
「あれ、なんだろう? これ……って」
袋を手に取り覗いてみると、中にはラピスの原石が大量に入っていた。
「えっ……」
思わず驚きを声にだしてしまうシィク。
しかし、その後ろでリヴァルが別な何かに気づく。
「シッ! 静かにしろ」
二人を連れて茂みに飛び込む。小声で黙るように伝えると気配を消して様子を窺う。
少し離れたところに柄の悪い男を三人、確認した。小さい村なので、村人の顔は全員覚えている。その記憶が、村の人間ではないことを決定付けた。
「いやぁ、しかし何度見てもすげぇな、このラピスは」
「ゴヒィー」
「こんな田舎に、こーんなレアリティの高いラピスがあるなんてよぉ」
「わっしらも欲しいけど、こんなレベルの高いラピスは使いこなせねぇからなぁ」
「使いこなせてたら、おれら大金持ちじゃね!?」
「確かにそうだ、ぎゃっはっは!」
彼らの会話と、一人が手にする指輪。それが昨晩、村を襲ったゴロツキたちであると確信させた。
思いがけない遭遇に、シィクとローザは息を飲む。
「あれはレギンおじさんのラピス……!」
「早いとこコイツをあの男のとこへ持っていくとするか」
「ゴヒィ〜!」
指輪を持つ男が移動を促す。
遠ざかる背中、シィクとローザは呼吸を荒くした。
「大変、なんとかしなくちゃ! でも……!」
「おし! 俺らで奴らからラピスを取り戻そうじゃねーか!」
「ええっ!?」
驚くシィク。リヴァルが、率先して提案するとは思わなかったのである。
シィクの反応に納得がいかなかったのか、リヴァルは語気を荒げる。
「んだよ、このままだと奴らに持ってかれちまうぞ!? なんとかしてやりてぇんじゃねぇのかよ!?」
「そうだよ、シィク! 私たちでなんとかしよう!? いつもロックスさんに戦い方を教わってるんだもん、きっと大丈夫だよ!」
「ローザ……」
ローザの後押しがあっても、シィクの表情は渋い。
俯きながら思考するシィクに、リヴァルがさらに背中を押そうとする。
「こういうときは、思ったまま行動した方がいいと思うぜ? 奴らを見逃しちまう前に追うぞ!」
「いや、待って。待ってよ……」
「あぁん?」
シィクのそれは、追い詰められたような声であった。
リヴァルとローザは、このまま追う気持ちでいる。しかし、本当にそれでいいのか。シィクは決めかねていた。
「こういうとき……、こういうときだからこそ、きちんと考えて行動した方がいいんじゃないかな?」
「シィク……」
慎重なシィクの提案。ローザは不安げに彼を見つめ、リヴァルは呆れてしまったのかため息を吐いた。
「おい! どうすんだよ!」
W:「分かったよ。僕たちだけでなんとかやってみよう」
R:「僕たちだけじゃ危険だ。助けを呼んでこよう」