やはり自分の考えに自信が持てないシィクは、ローザのためにもリヴァルの言う通りに動いた方が無難なのではないか。
そう思い、ローザに関するところだけは適当にごまかしながらおおまかないきさつを話す。
ラピスを盗んだゴロツキたちを見つけ、取り返そうと提案したこと。戦闘になり、返り討ちにあったこと。
自分たちが意識を失っている間に、何者かが助けてくれたらしく、気づいたときにはゴロツキたちが焼き殺されていた、と。
「……だから、その……っ、ぼ、僕が気づいたときには、あんな状態だった、から……」
ロックスに嘘を見抜かれないように、うつむいて表情を隠しながら言葉を選ぶ。
たどたどしく、何度も言葉を詰まらせてしまったせいで、もしかしたら嘘だと見抜かれているかもしれない。
反応は怖いが、いまはリヴァルの言った通り、ローザを護るためには本当のことを話すわけにはいかない。
「これが、兄さんが来るまでに起きたこと、なんだ……」
たった数秒の沈黙がシィクを苦しめる。五本の指を折る程度の僅かな時間なのに、その何倍も長く感じた。
やがて、ロックスはため息を吐く。それは安堵を伴っていた。
「そうか。お前たちが面倒事に巻き込まれていないのならばよかった」
その言葉を受けて、表情を見て、罪悪感を覚える。
いままで自分の気持ちに嘘を吐いたことはあれど、人に対してここまでの嘘を吐いたことがなかった。ましてや兄は、あの惨状を目撃していながら自分の話をまるで疑っていない。
一瞬、本当のことを話しておいた方が別の解決策が出たかもしれないと思ったが、いまさら自分の発言を撤回するわけにもいかない。
「じゃあ、俺はいつものように村の周辺を見回りしてくるとするか。 もしかしたら、お前たちを助けてくれた人に会えるかもしれないからな」
そう言って、ロックスは部屋をあとにした。
残されたシィクの胸には、後味の悪さだけがしつこくまとわりついていた。
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