Tales OF Seek 第1話「求めるもの・欲望」


第1話 求めるもの・欲望

クリムソンエーラの災厄より六年。世界は徐々に精霊の力を取り戻し、人々の生活は元に戻りつつあった。
そんななか、六年前の決戦が繰り広げられたあの地で、一人の男が佇んでいた。
その男は、過去の災厄を引き起こした張本人、ウィングルム。

「フフ……六年、か。長かったな」

握った拳に、力の回復を確かに感じていた。
彼は腕を大きく広げ、天を仰ぐ。

「休息のときは、間も無く終わりを告げる。世界は欲望に傾き――全ての力は、私のものとなる」

天を仰ぎ見て言い放ったそれは、世界に向けた宣言であった。

「フフッ、ハッ、ハハハハハッ……」

天を仰ぎながら静かに笑う。
瓦礫の中を歩く足音は、世界が崩壊するのを数えているようであった



エピオス村。
アエテルヌム王国の最西端にある、豊かな自然に囲まれ、訪れた者を川のせせらぎが迎える静かな村だ。
数少ない世帯のうちの一つに、少女と青年が訪れた。いずれも、この村の住人である。

「シィクー! そろそろ時間だよー!」

ローザの呼びかけに応えるように、二階の窓が開け放たれる。そこから顔を出したのは、一人の少年。
慌てていたのか、彼の顔には焦りの色がうかがえた。

「ごめん! いま行くから!」
そう告げて、部屋の中に引っ込む少年。少し経ち、ばたばたと忙しない足音を立てながらドアが開かれた。
少年は、遅れをごまかすように笑顔を浮かべている。

「はは、ごめんごめんっ」
これまで沈黙していたリヴァルが、溜め息を一つ吐いた。
「はぁ……。おいシィク、毎度のことながらおっせぇぞ!」
その言葉に、シィクと呼ばれた少年の笑顔が苦いものに変わった。何か言葉を探そうとしている。

「うっ、あ……ごめん」

「また家を出る前に持ち物チェックしてたんでしょ? シィクは慎重すぎるんだよ」
謝るシィクに、今度はローザが声をかけた。その言葉は優しく、シィクをフォローするもの。
少女のそれに、リヴァルの言葉の勢いが弱くなった。

「ったく、前日に準備してんならそれで充分だろ? ちったぁ俺を見習えよな!」
「えっ!?」

意外に思ったのだろう、シィクは奇妙な声をあげる。
そうなるのもしかたないことであった。リヴァルは忘れ物をすることが多いと知っているからだ。

「リヴァルは注意力、足りなさすぎなの」
リヴァルを見つめるローザの言葉は、シィクの気持ちを代弁したかのようなものであった。
これにはさすがに、リヴァルは何も言えないようである。
困ったように笑い、ローザは呟く。

「シィクとリヴァル、ふたりを足して二で割るとちょうどいい感じなんだけどね」
「あはは……」

ひとしきり笑いあい、乱れたままの身なりを整えるシィク。

「……っと、よし! これで大丈夫かな。じゃあ、行こうか?」
「うん」
「おう!」

スキット『今日こそは勝つ!

村の奥まった地域は、森への入り口に繋がる道がある。主な利用者は狩りを生業とする者だ。
その手前には広場があり、三人はよくここを訪れている。
一人の青年が、そこには居た。三人の先生のような存在である。

「お? ああ、来たか。よし、じゃあ始めるとしよう」
「はい、今日もよろしくお願いします!」
「ああ」

青年――ロックスはローザの言葉に頷くと、全員に視線を移した。

「昨日はラピスを活用した戦闘について話したが、今日は……実戦だ」

身の丈ほどもある刀身の剣。それがロックスの得物である。それを引き抜き、上着の内ポケットからあるものを取り出す。

「それと……」

それはネックレス状に加工されたラピスであった。
ロックスはそれをシィクに向けて放り投げる。

「そのラピスは、以前、俺が旅をしていたときに手に入れたものだ。シィク、お前はそのラピスの力を活用して戦え」
「えっ!? 僕が!?」
「おぉい! 俺のぶんはねぇのかよ!?」

シィクにのみ渡されたのが不服なのか、リヴァルは声を荒げてロックスに食って掛かる。
ロックスは呆れたように溜め息を吐く。

「お前は昨日、ラピスの説明をしたとき、ロクに聴いてなかっただろ」
「ぐっ」

そりゃそうだが、と唸るリヴァル。それを見てかロックスは、どこか楽しそうに微笑んだ。

「ふっ、俺はお前の戦闘センスを買っているんだぞ?」

そう告げると、引き抜いたままの大剣を構える。周囲の空気が引き締まるのを、三人は感じた。

「さあ、三人とも。全力でいいぞ? ――来い!」
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