Tales OF Seek 第4話「近づく欲望」1


第4話「近づく欲望」1

 エピオス村へと戻ったシィクたち。
立って歩ける程度に回復したリヴァルだが、表情からは深い疲労が窺える。眠ったままのローザを自宅に送り届けたシィクとリヴァルは、ロックスの部屋で事情説明を求められていた。
……しかし、どこから話すべきなのか。あの状況を正直に話していいものか。判断がつかなかったシィクは言葉を発することもできず、リヴァルはといえば話す気がないらしく気だるそうに姿勢を崩していた。
 沈黙が続く。秒針の音がうるさい。静寂を破ったのはロックスだった。

「……さて。なにがあったか、聞かせてもらおうか?」
「えっ……!? あ、う……」

 覚悟していたとはいえ、いざ質問されると言葉を詰まらせてしまうシィク。リヴァルからの助け舟はない。
はっきりしないシィクたちに、ロックスは疲れの混じったため息を漏らす。

「いつまで経っても訓練に来ないから、気になって調べてみれば……。どう考えても、あの状況はただ事ではない。教えてくれ、なにがあった?」
「…………」

沈黙を守るシィク。そこでリヴァルがわざとらしく声をあげた。

「あーっとヤッベェ! そういや俺、頼まれものがあったんだよなぁ〜!」
「えぇっ!? え? えぇ!? ちょっと、リヴァル!?」

「すまねーなぁシィク! あとは任せるぜー」
リヴァルはわざとらしく言うと立ち上がり、すれ違いざま、早口でシィクに耳打ちした。

「え!?」と素っ頓狂な声をあげるシィク。その肩をぽんと叩いて、リヴァルは逃げるように部屋を出ていった。
姿を消したリヴァルに呆れ、ため息を吐くロックス。だがすぐに表情を引き締め、再び経緯を尋ねる。

「で、シィク」

その声はいままで以上に低い。鋭いものを感じたシィクは、うっと喉を詰まらせた。
先ほどリヴァルに告げられた言葉が脳内を巡る。

 ――ローザを護りてえと思うんなら、あいつがやっちまったことだけは、絶対に話すんじゃねえぞ。

 ゴロツキだけでなく、ローザが自分たちを襲ったことを知れば、ロックスは以後ローザを警戒するだろう。彼は優しいが、同時に厳しさも兼ね備えた人間なのだ。
もしここで正直に打ち明けてしまえば、次になにか事件が起きたとき、ロックスはローザに手をかけるかもしれない。村のみんなを護るために。そういった不安や迷いがシィクをいっそう惑わせた。
その一方で、事実を話してしまった方がもしものときにローザを助けてくれるのではないかと希望を抱いてしまう。
 周囲の者に気づかれているかはわからないが、シィクがいつも人の意見を優先するのには理由がある。
偶然とはいえ、自分の意志で行動したことがことごとく裏目に出ていたシィクにとって、ロックスやローザたちに任せておいた方が事態が丸く収まると思っていた。
そんな流れが何度も続けば、自分の選択に自信が持てなくなるのも無理はない。
だがいま、選択を強いられているのはシィク自身だ。

 (W):ロックスに全てを話す。
 (R):リヴァルの言う通り、ローザの異変については話さない。